1997年に創刊されたストリートスナップ誌『FRUiTS』は、モデルやスタイリストを介さない“素の原宿”をそのまま誌面化し、世界に〈Tokyo Street Style〉という概念を定着させた。
編集長・写真家の青木正一(Shoichi Aoki)は「街を歩く若者こそが一次資料」という徹底した現場主義で、個々の装い=社会の変動を可視化したのである。
青木は被写体データを年齢/職業/ブランド/Point of Fashionに絞り、ページ全体をほぼスナップで構成した。
広告を極限まで排したことで、紙面は「装いの成分表」として機能し、色彩配置やシルエット比率を精査するデザイナーたちのリファレンスとなった。
こうしたラベリング手法は視覚民族誌(visual ethnography)のプロトタイプと評され、現在のAI向け学習データにも転用されている。
233号で月刊を終了した理由は、「もう撮るべきオシャレな子がいない」という一言に集約される。
大量生産的トレンドが街を均質化した時点で撤退し、情報の希少性を守った判断は、ブランドがラインを畳むタイミングや限定ドロップへ切り替えるロジックと同型だ。
2023年、初期号が 英語併記ePubとして配信開始。
紙版より25%高い単価ながら、在庫リスクゼロで海外美術大学のリーディングリストに再登録され、アーカイブが“外貨”を生むモデルを提示した。
公式ショップでは『STREET』『TUNE』を含む電子版一括パッケージも展開され、過去 IP の多層的マネタイズが進む。
・実空間
渋谷 LA MUSEUM では90年代スナップを軸にしたアーカイブ展が開催され、一部写真がNFTミニカードとして即完売。
・バーチャル
メタバース上の“Virtual Harajuku”では、青木の高彩度画像データがウェアラブル開発用パレットとして流通し、海外ユーザーが配色解析に利用している。
こうして観察→記録→データ化→流通という循環が、リアルとデジタルの両面で回り始めた。
青木は被写体に声を掛けてからシャッターを切るまで「わずか数秒」と語る。
ポーズ指示を排し、“自意識が立つ刹那”を収集することで、装いの意図と偶発性を同時に封じ込める。
時間的制約ゆえに生じるカメラと被写体の緊張感が、写真を単なる記録から“動的アーカイブ”へ変える核心である。
青木正一の功績は、原宿という局所空間を「観察→構造化→共有」することで、ストリートを研究装置に変えた点にある。
25年の歳月を経た現在、デジタル化と国際化を経て、その装置は再びアップデートされ、未来のファッション史をリアルタイムで書き換えつつある。
ブランド開発、コレクション企画、教育カリキュラム ―
どの領域にいても“現場から理論を起こす”フレームワークとして、青木の観察学は今なお第一線で機能し続ける。
Powerd by FanClub3.0
©2025 NEXT SOCIETY